INTERVIEW
2013年入社
工学研究科 化学工学専攻修了
CAREER STEP
1年目 | スチール研究所 製銑研究部 世界各地から取り寄せた鉄鉱石の品質評価。鉄鉱石から鉄を製錬するプロセスの技術開発。 |
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2年目 | 海外留学 ブラジルの資源会社へ派遣。共同研究推進、鉄鉱石の処理手法について学ぶ。 |
3年目 | スチール研究所 製銑研究部 省エネ化に関する研究開発、操業試験。 |
7年目 | 同上 操業改善に関する研究開発、操業試験。ブラジル、インドの製鉄会社へ技術支援。製鉄プロセスの脱炭素化に関する検討に従事。オーストラリアの研究機関への派遣を経験。 |
学生時代は化学工学を学んでいました。もともと環境・エネルギー問題に興味があり、エネルギープロセス工学の名を冠した研究室に所属していました。そこで、資源の乏しい日本でどのようにエネルギー源を確保するか、その一つの手段として、埋蔵量は豊富にあるけれど品位が低いために主流ではなかった炭素資源を日本で有効利用できないか、という文脈で炭素資源をクリーンな形態で活用するための研究をしていました。
就職活動では当初、化学工学の知見を活かせる、総合化学メーカーやプラントエンジニアリング業界への就職を漠然とイメージしていました。そうした中でJFEスチールの社員の方と会う機会があり、自分の仕事に対する想いや誇りを熱く語ってくれたことが、興味のきっかけになりました。その方は情熱的でありながら、理路整然としていて、気さくな人柄が印象的でした。その後のJFEスチールの工場見学では、街のように広大な埋立地と、そこに立ち並ぶ壮大な工場群が印象的で、製鉄所の中に入っていくと、溶けた鉄が発する強い光や遠くからでも感じる輻射熱、巨大な製鉄機械が発する轟音など、すべてに圧倒されたのを覚えています。最終的には、就職活動の過程でお会いした社員の人柄と、製鉄所での工場見学が入社の決め手になったと思います。
入社以来、スチール研究所の製銑研究部という部署に所属し、鉄鉱石と石炭から、高炉を用いて鉄を生産するプロセスに関する改善・開発を担当しています。高炉法は歴史が古く、確立された生産プロセスですが、製鉄業をとりまく外部環境は大きく変化してきました。たとえば、原料品位の劣化や資源価格の高騰、中国製鉄業の躍進などです。そのような変化の中でも、常に安定して、より安価に、より効率的に、より省エネルギーで鉄を生産するための検討を、工場や本社と協力しながら推進しています。自分が立てた仮説を実験で検証できたとき、また、課題をクリアして装置や設備の導入が完了して稼働を開始したときが、この仕事のやりがいの一つですね。
一方、現在の高炉法は石炭を必要とするため、1トンの鉄を生産すると約2トンのCO2が発生します。2050年までに脱炭素社会を実現するために、製鉄会社が果たすべき役割として、排出するCO2を回収して再利用する技術、あるいは高炉法を代替する石炭を用いない別の生産プロセスを検討しています。これは、数百年ものあいだ優位性が揺らぐことのなかったプロセスを変革するという一大プロジェクト。2030年までに技術的な目途を付けるのが現在の目標であり、その実現によって、「人や社会に貢献できた」という確かな手応えを得られたとき、より大きなやりがいを感じられると思っています。
鉄鋼の生産プロセスや反応器の内部で生じる現象を理解するために、幅広い学問分野の知識が必要な点です。学生時代に主に有機/無機化学や化学工学を学んできましたが、仕事をしていく上では冶金・材料・機械工学的な視点が不可欠であり、社会人になってからも、日々の勉強が重要だと感じています。
また、鉄鋼業の歴史は長いため過去からの蓄積が非常に多く、新たな着想だと思っても、過去の文献をひも解くとすでに検討されていたということも少なくありません。過去の知見に助けられることも多々ありますが、真に先進的な取り組みを行うのは容易なことではないですね。「過去の膨大な情報という巨人の肩の上に載った上で、さらにもう一つ先の実績を重ねたい」、その思いで開発業務に取り組んでいます。
一方で、優位性が揺らがないと思われていた高炉法による製鉄プロセスを抜本的に変えることは困難なテーマであるものの、同時に新しいことに取り組めるチャンスでもあると感じています。先が見通しにくい時代での研究開発ですが、アンテナを広く張って、会社や社会に貢献できる方法を考え、語り、行動に移していきたいと思っています。
現在の主要な取り組みである「CO2を回収して再利用する技術開発」と「高炉法の新たな生産プロセスの開発」は、その実現まで今後数十年の時間を必要とします。もしかしたら自分が現役中に実現できるかどうかもわかりません。ですから今取り組んでいる新しい技術を確立し、鉄鋼メーカーとして脱炭素社会の実現に貢献することこそが、会社人生を通しての自分の夢にほかなりません。
この取り組みに限らず、鉄鋼メーカーの上流の研究開発は1~2年で結果が出るものではなく、10年オーダーのものが多くあります。さらにそれだけ時間と労力をかけても、成功頻度は決して多いわけではありません。そうした中でも、新しい技術領域に勇気をもってチャレンジしていくことが求められます。私はもともと環境・エネルギー問題に関心があり、大学でもそれらに関する研究に従事していましたが、それから約10年が経ち、巡り巡って鉄鋼生産における環境・エネルギー問題に取り組むことになりました。研究者冥利に尽きると感じていますし、人生をかけて取り組んでいきたい。そして、2050年に日本や世界の製鉄プロセスがどのように変化したのかを、見届けたいと思っています。
プライベートで充実していると感じるのは、妻と3人の子どもたちと一緒に、家で美味しいご飯を食べているときです。平日は、できるだけ子どもたちと一緒に夕食を取れる時間に帰宅するようにしています。休みの日は、長男のソフトボールチームの練習に参加して、体を動かすのがいいリフレッシュ。大学時代にドイツでインターンシップに参加したのですが、そこで見たドイツのエンジニアたちのように、仕事で成果をあげながら、家族と過ごす時間も大切にすることが目標です。