PROJECT #2

メキシコでの
溶融亜鉛めっき鋼板
製造設備建設

北米マーケットをターゲットに、
自動車用鋼板の製造・拡販に挑む。
JFEスチールは2017年、メキシコにて自動車用溶融亜鉛めっき鋼板製造設備(Continuous Galvanizing Line=CGL)の建設に着手。2020年2月に操業開始し北米マーケットへの同製品の販売を開始した。これはJFEスチール50%/米国最大の鉄鋼メーカーのNucor Corporation50%出資の合弁会社NUCOR-JFE STEEL MEXICOにおいて進められているプロジェクトだ。
溶融亜鉛めっき鋼板とは、鋼板の表面に亜鉛の被膜を作ることで耐食性を高めた鋼板であり、主に自動車用高級鋼板として安定的に需要が推移することが見込まれている。またメキシコは、世界第2位の自動車マーケットである北米域内において、自動車生産のハブ拠点として注目されている国。特に米国向け自動車生産のグローバル拠点として注目されている。JFEスチールは、中国、タイ、インドネシアの3拠点に続き、北米でも自動車用鋼板事業を展開することで、自動車メーカーの現地調達需要及び高度化する製品ニーズに応えていくことが可能になる。これはJFEスチールにとって歴史の一ページを刻むビッグプロジェクトだ。

PROJECT MEMBER

営 業

秦 圭(1993年入社)
Nucor-JFE Steel Mexico
Sales & Marketing
Department
Director

製造技術開発

岩田 哲也(2007年入社)
Nucor-JFE Steel Mexico
Operation Department
Process Engineer

技術系

尾花 航(2015年入社)
Nucor-JFE Steel Mexico
Quality Department
Quality Advisor

Question - 1

プロジェクトにおける
それぞれの役割を
教えてください。

自動車用鋼板事業で北米エリアに足場を作ることは、当社の積年の課題でした。その具体的な検討が始まったのが2014年頃。私は2015年からマーケティングや事業の実行可能性調査に着手し、CGL建設のための土地取得、合弁会社設立に向けた検討など、プロジェクトの初期段階から関わり、CGL着工後は現地自動車メーカーに向けた販売・プロモーション活動、需要開拓に取り組んできました。
日系自動車メーカーは従来から取引があるお客様が多いため、相互理解や意思疎通がスムーズでしたが、欧米メーカーへのアプローチは初めての試みです。お客様に材料を評価していただき承認をもらうことで採用となります。さらに、通常4~8年スパンのモデルチェンジのタイミングでの採用となりますから、粘り強い地道な活動が求められます。したがって現在は、モデルチェンジの時期を見据えつつ、建材など非自動車分野向けの需要開拓も進めています。岩田さんがプロジェクトに参加したのは、CGL着工後のことでしたね。
岩田
ええ。2019年1月に着任しました。入社以来、国内のCGLを担当し、以前から、海外勤務を希望していました。ようやくその想いが叶い、率直に嬉しかったですね。私の当初のミッションは各種設備の試運転業務。テストの計画立案から進捗管理、オペレーターの教育、資材の現地手配など、稼働に向けて各種設備の問題点を抽出し適切に是正していく取り組みでした。
設備稼働後も不具合是正や操業パラメーターの適正化など、安定稼働を目指した取り組みを進めています。CGLというのは多くの設備が連動し作業が同時並行で進んでいきます。したがって、ある設備が何かしらの不具合で止まってしまうと、単に生産性の低下のみならず、不良品の発生率も高まってしまう。私たちプロセスエンジニアの役割は、より安いコストで歩留まりの良い製品を製造することであり、高精度・高品質の製品供給のために、日々、安定稼働を目指して各種設備と向き合っています。尾花さんは早い時期の赴任でしたね。
尾花
はい。私は、CGL着工後の2017年11月に着任しました。私も岩田さん同様、入社以来CGLに関わっており、入社後2年間は国内のCGL、その後半年はインドネシアのCGLを経験しました。
私のミッションは、岩田さんたちが製造した溶融亜鉛めっき鋼板の品質管理システムの構築であり、また、現地スタッフへ品質管理のための技術指導も担っています。お客様である自動車メーカーの生産性向上には、鋼板の加工性に加え、板厚精度の高さや材質のバラツキの極小化、さらに表面品質の向上など、鋼板そのものの品質が極めて重要とされています。私たちはお客様の高い要求レベルを実現するため、高精度な品質管理システムを構築し、現在も一層の高度化に取り組んでいます。

Question - 2

仕事の困難な点と、それを
乗り越えるための取り組みを
教えてください。

岩田
困難な点は、やはり皆さんも実感されている、異文化コミュニケーションだと思います。米国、メキシコ、日本ではそれぞれモノの捉え方や考え方が異なります。その中で、いかに相互理解し合意形成を進めていくか、プロジェクト当初から現在に至る、課題の一つだと思いますね。
おっしゃる通りで、まず合弁相手のNucor社と社風や考え方の違いを擦り合わせていく必要がありました。異文化・異言語環境において、社内外と円滑にコミュニケーションを図り、いかにして物事を計画通り進めるか。Nucorでは個人の裁量が大きく各自の判断で即断・即決し、即実行に移すものの、書類として記録を残す文化はあまりなく、結果、報連相の頻度がJFEスチールと比較すると少ないなど、文化の違いはかなりありました。こうしたカルチャーギャップに対して、岩田さんはどのように対処しましたか。
岩田
私は操業部門の所属になりますが、その所管はNucor社。したがって、すべてが「Nucor Way」であり、日本人である私は、当初は話も聞いてもらえない状況でしたね。ある意味過酷な環境に置かれたのです。その中で、すべてに誠実であることを、まず信条としました。そして相手を尊重して話を丁寧に聞き、こちらから話をするときには、はっきりと、論理的に納得感のある説明を心がけました。また問題解決にあたっては、諦めず、粘り強く意見・アイデアを発信し、それが妥当であるエビデンスを積み重ねることで信頼関係を醸成していきました。最近、相互理解、円滑な意思疎通が実践できるようになってきたと思いますね。尾花さんは、その点いかがですか。
尾花
私はインドネシア赴任の経験がありますが、そのときは当社100%出資の子会社だったこともあり、あまり文化の違いは感じませんでした。しかしメキシコに赴任して、多様性の中に投げ込まれた感じがしますね。日本、米国、メキシコ、国によってこんなにも考え方が大きく違うのだと、大いに戸惑いました。
たとえば、メキシコ人は業務のプロセスを重視せず、結果が良ければOKという判断をする場合が少なくありません。しかし品質管理においてはそのプロセスが重要であり、さらにその検証を継続することが、より高度な品質管理を実現するのだと思っています。ただ私は、自分の考えが正しいと決めつけて主張するのではなく、100%オープンマインドで議論することを心がけました。
私も尾花さん同様にオープンマインドであることに常に努めています。また岩田さんがおっしゃったように相手へのリスペクトは大切ですね。当社のやり方を頭ごなしに押し付けては、決してプロジェクトは前へ進みません、日本的な「阿吽の呼吸」が通じないことも痛感しました。とにかく、会話をすることが大事。異文化コミュニケーションの壁を乗り越えるのは、会話し続けること。それが肝心だと思っています。

Question - 3

プロジェクトに
関わることで得られた
やりがい・成長できたことを
教えてください。

岩田
やはりゼロから立ち上げた設備が稼働したときは、それまでの苦労が報われた実感があり、やりがいを感じましたね。また、稼働している設備において不具合は付き物ですが、翻って言えば、それは改善すべきネタの宝庫であるとも言えます。自分のアイデアでそうした不具合が一つひとつ改善していくこと、そしてそれが高品質の鋼板製造に繋がっていくことにもやりがいを感じます。秦さんはその点いかがですか。
このプロジェクトは自動車用鋼板を供給することが目的ですが、先に言ったように現在は非自動車分野向けであり、自動車用鋼板を本格的に量産し供給するのは、もう少し先になります。したがって、本当のやりがいは、お客様に製品を納入して高い評価を得られたときに感じることができると思っています。現段階では、異文化・異言語の社員たちと相互理解のプロセスを経て、CGLの稼働をはじめ、一つのことに向かって物事を達成したことにやりがいを感じています。それは異文化コミュニケーションの壁を乗り越えたことであり、プロジェクト推進の大きな力になっていると思いますね。
尾花
私も同感です。物事が上手くいかないときは、往々にしてコミュニケーションが不全のときが多いと感じます。その際、いかに、柔軟に対応し課題を明確にして解決策を導き出せるか。やはりそこでもオープンマインドでの議論が必要であり、その継続が人種も国籍も超えて一丸となり、ベクトルを共有できる体制構築に欠かせないと思いますね。だから、メンバーが一体感を共有し、小さなことでも物事を成し遂げられたときにやりがいを感じます。
私はすでにキャリア30年ほどになりますが、まだ成長余地があったことを実感しています。コミュニケーションのグローバルスタンダードのようなもの、いわば真のコミュニケーションを身に付けることができたのではないかと思っています。また、日本や当社の外の世界、企業のやり方・考え方を生で体験できたことで、視野が大きく広がったと思いますね。
岩田
そうですね。秦さんのご指摘のように、異文化の中で働くことが成長を促していると思います。異文化環境における信頼関係構築や意思疎通のあり方を理解・吸収したことは、自身のキャリア形成において大きなインパクトをもたらすと思っています。また、外国人との折衝能力や語学力の向上など、スキル面でも成長したと感じています。
尾花
お二人にすべて言われてしまったので、別な側面から(笑)。今回のプロジェクトはプラントエンジニアリングもシステム開発も、日本ではあまり馴染みのない会社を採用しています。そのため現場は悪戦苦闘の日々でしたが、日本で触れる機会がなかったシステム開発やクラウド構築などを吸収することができ、技術者として新しい知識・ノウハウを身に付けることができたのは、大きな財産だと感じています。

Question - 4

このプロジェクトの
社会的意義と将来展望について
教えてください。

尾花
メキシコ現地で自動車用高級鋼板を製造することは、メキシコ産業の安定化や工業化の一層の進展に寄与すると思いますね。メキシコは自動車の一大消費地である米国が隣にあり、北米エリアの自動車生産ハブとしての位置付けが強い。またメキシコの自動車生産能力は500万台に達していますが、国内の自動車用亜鉛めっき鋼板の供給能力は、私たち進出以前では、その5割強をカバーする程度に留まっていました。現地で自動車用鋼板事業を展開することで、メキシコの経済成長に貢献するという意義があると思います。
そうですね。また、我々が進出したここバヒオ地区はメキシコの自動車生産能力の80%が集積しているエリアで、多くの自動車産業関連企業が進出してきておりますが、そのサプライチェーンはまだ発展途上の段階です。我々がこの地に進出したことで、現地の自動車生産サプライチェーン拡充促進の一助となることができ、加えて地域経済発展へ貢献するという意味があると思います。この恵まれた立地条件による安定デリバリーの確保と高品質鋼板の供給で、私たちが優位性を保っていくことは地域経済に貢献することに繋がっていくと思っています。
岩田
私たちのプロジェクトのポイントの一つは、CGL建設に当たり、できる限りの設備や材料を現地で調達した点が指摘できると思います。競合する海外メーカーのように自国のCGLをそのままコピー&ペーストしてメキシコに持ち込むのではなく、私たちは現地に溶け込む「現地化」が基本スタンス。もちろんそこにはコストダウンの狙いはあるものの、現地調達、そして現地メキシコ人の採用・教育の実施を通じて、メキシコの経済や技術の発展に寄与したいと思いますね。売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」を実現できるプロジェクトでありたいと考えています。
尾花
ええ、私も実際に、現場で現地スタッフへ品質管理のための技術的指導を行っています。当然、それは高品質鋼板を供給するために不可欠なことですが、一方で人材を育成することが、将来的のこの地域の発展に繋がって欲しいと思いますし、また人材育成が今後のプロジェクトのカギを握っていくとも感じています。
ただし、私たちの究極的なミッションは、高品質の自動車向け鋼板を供給するため、より安定的なCGLを実現することです。CGLによる本格的な鋼板製造は今始まったばかりともいえるフェーズ。この先1~2年で最大限能力を発揮できるCGLへ進化させることで、メキシコでNO.1の評価を獲得する自動車用鋼板を製造していきたいと思っています。今回のプロジェクトを通して、新プロジェクトの立ち上げやシステム開発の困難さと面白さを体感したので、今後も機会があれば新規プロジェクトの立ち上げに関わっていきたいと考えています。
岩田
私も同感です。自動車向け鋼板の量産体制を確立し、Nucor-JFE Steel Mexico社の早期の黒字化を成し遂げ、高収益企業へ飛躍したいですね、それが現地も含めて「三方よし」に繋がっていくと思っています。将来的には、工場長などの広範なマネジメントをミッションとする業務や営業も含めた未経験の業務にも挑戦したい。また、国内外問わず、今回のようなライン新設のプロジェクトや海外メーカーへの技術供与のようなプロジェクトにも関わってみたいですね。
まずは、早く自動車用鋼板を市場に送り出し、安定的な供給を実現することで、メキシコにおける自動車用鋼板サプライヤーとしての確固たる地位を確立したいですね。今後、個人的には、これまでの自分の経験・知見を活かして、海外事務所や海外事業体の責任者の立場で、現地の国情や文化踏まえた上で、どうやったら当社のプレゼンスを更に高めていけるかという課題に挑戦したいと思っています。