PROJECT #3

第7スラブ連続鋳造機
建設プロジェクト

あらゆる部門の英知を結集し、
約10年ぶりに
大型設備を新設。
2021年6月、西日本製鉄所 第2製鋼工場で新たに第7スラブ連続鋳造設備(No.7 continuous slab caster, 以下7CC)が稼働した。連続鋳造設備とは、精錬された鋼を連続的に固め、スラブと呼ばれる鋼片を製造する設備だ。それまで第2製鋼工場は転炉2基に対して2基の連続鋳造機が稼動していたが、連続鋳造設備の生産能力が不足していたことから連鋳工程がボトルネックとなっていた。
7CCの稼働により、厚板向けスラブを主体として年間生産能力は200万トンも向上、鋼材の安定供給に大きく貢献した。また、7CCは従来よりも大きなサイズの鋼板用素材の製造ができることが特徴であり、また最新の制御機構によりスラブ表面・内部品質の大幅な向上を実現。これにより、船舶や自動車向けに加えて、洋上風力発電の基礎となるモノパイル生産も見込んでおり、JFEグループが注力する自然エネルギー開発にもはずみをつける。

PROJECT MEMBER

製造技術開発

大山 智史(2005年入社)
西日本製鉄所
製鋼部 第2製鋼工場
工場長
エネルギー科学研究科修了

設備技術開発

川越 雅嗣(1998年入社)
西日本製鉄所
設備部 開発・設計室
主任部員
工学部 精密工学科卒業

設備技術開発

郡山 大河(2014年入社)
西日本製鉄所
制御部 銑鋼制御室
主任部員
自然科学研究科
機械システム工学専攻修了

Question - 1

本プロジェクトで、
それぞれが果たされた役割を
教えてください。

大山
7CCプロジェクトは、西日本製鉄所の生産能力増強と高品質製品の製造を目的として、連続鋳造設備を約10年ぶりに新設した大型プロジェクトです。プロジェクトには機械、制御、土木、電気、操業などあらゆる分野のメンバーが集結し、2017年からおよそ4年にわたって建設に取り組みました。私は操業グループのグループ長として、安全操業が可能で、かつ高品質なスラブを安定製造するための操業方法を決め、設備仕様や制御仕様に落とし込んでいく役割を担いました。
川越
私は機械担当者として、連続鋳造設備のエンジニアリング業務を担当しました。具体的には、大山さんたち操業担当者と設備仕様を検討・決定し、製鉄プラントメーカーなど関係各社に詳細設計を依頼。提出された設計や機械図面等をチェックして、必要に応じて修正し、仕上げていきます。設計完了後は製鉄プラントメーカーとともに製作品管理や検査を行い、最終的には現地工事計画、設備の試運転調整等、設備稼働までの建設エンジニアリングを行いました。
郡山
私の担当は制御関係の設計です。7CCプロジェクトは高品質製品を実現する「倉7ブランド確立」をコンセプトのひとつに掲げており、制御設計にも高いレベルが求められていました。例えば連続鋳造では水をかけて冷やしていくのですが、どのタイミングで、どれくらいの量を使用するのかでも品質に差が生まれます。そのため、一つひとつのセンサーの位置や精度についてまで、関係部署と協議しながら制御方案を検討し、制御機能を実現していきました。また、設備を安定稼働させるために冗長化システムを導入したほか、自動化についても積極的に取り組みました。
大山
7CCはこれまでにない大きなサイズのスラブを製造するため、新たなチャレンジが必要でした。製造機械の選定や制御方法、安全操業のための動線確保など、これまでの知見では足りない部分も多く、どう解決するかに悩まされましたね。
川越
そうですね。大きなサイズのスラブを生産するには設備強度が必要ですが、当然、スペースも予算も限られている。構造や材質を工夫することで、それらの問題を解決していくわけですが、そうした“課題”が山積し、プロジェクトはチャレンジの繰り返しでした。
郡山
設備が完成しても、求める品質の鋼材を安定的に生産するには細かな調整も必要です。7CCは2021年に完工しましたが、プロジェクトは設備を作って終わりではありません。
藤村
その品質確性に関わっているのが、私の所属する工程部です。私が7CCプロジェクトに参画したのは建設完了後の終盤です。主な役割は、操業試験スラブの提供やスラブ搬出フロー、品質確性材の出鋼スケジュール策定やスラブ在庫量管理など、技術系の方々が進める設備面での確性をバックアップすることです。現在も製鋼研究部の方々と日々品質調査を行っており、私にとってプロジェクトは今も進行中です。

Question - 2

それぞれの役割において、
もっとも苦労したことは
何でしょう?

川越
機能や設備仕様を満たしつつ、設備の信頼性・安定性と作業性・安全性を追求、なおかつこれを安価に建設するのが非常に大変でした。そのために技術的なブレークスルーがいくつも必要でしたし、自分一人では解決法が思いつかないことも多く、社内関係部署や社外関係各社と協力しながら作り上げていくことが必要でした。そのために他地区や同業他社の事例を調査したり、過去の文献や論文からヒントを得たり、とにかく考え抜けば必ず解答はあると信じて業務を行いました。
郡山
同じですね。7CCはこれまでにない設備であり、私にとって一からの建設が初めての経験でもあったため、何を決めなければいけないかもわからない状態でした。そのため、既存の設備の仕様を勉強して自分の知識アップを図りました。また、JFEスチール初となる技術の導入、製品サイズの製造にあたっては、操業部門の方々と頻繁に打ち合わせを重ね、新設備を製造するための課題とその解決法を追求して、制御方案を設計していきました。
大山
規模が大きいために一つの事象、一人ひとりの考え方を統一することが一番大変でしたね。安全対策一つをとっても、現場・管理・保全の各部門で重視するポイントが違います。そこでそれぞれのメリット・デメリットを不完全ながらも数値化・定量化して、各部門が納得できる解答にたどり着くようコミュニケーションを重ねました。
川越
このプロジェクトには多いときには40名ほどが参加しましたが、それぞれに役割が異なります。私はバレーボールの観戦が好きなのですが、バレーボールに例えるとアタッカーもいればセッター、リベロもいて、それぞれが役割を果たすことでチームを勝利に導くわけです。しかし、それぞれがバラバラに動いていては戦術も何もありません。メンバー全員が同じ方向を向くために、密なコミュニケーションはきわめて重要なポイントだったと思います。
郡山
想定外のトラブルもたくさんありました。なかでも試運転時にアジア最大級の鋼板製造に一度失敗したことは強く印象に残っています。
川越
ダミーバーに機械的欠陥があり、設備破損を起こしたトラブルですね。
大山
完工間際のトラブルでしたから、毎日対策会議を開いて侃々諤々。原因究明、問題解決に向けて忌憚なく意見を出し合い、課題を克服したことはすべてのメンバーにとって思い出深い出来事だったと思います。
郡山
藤村さんは、現在も品質確性、生産計画で奮闘中ですか?
藤村
はい。7CC立ち上げ後の出鋼材の品質確性を現在も継続中です。ただ、お客様からのオーダーに応えつつ生産計画を進めなくてはならないので、ミルの稼働やデリバリーの状況を見つつ、各部署の理解を得ながら、品質確性を進めていく必要があり、その調整に苦労しています。2022年の上期中を目標に作業を急いでいるところです。

Question - 3

本プロジェクトの
社会的な意義、
社会に与える価値とは
どのようなものでしょう?

大山
社会的意義という点では、グリーンエネルギーである風力発電に用いられる鋼材を供給することで、気候変動問題の解決に貢献することでしょうか。
藤村
7CCでは大単重の厚板材をより短いリードタイムで製造できるため、今後、環境負荷が低く電力供給量が増えると予想される洋上風力発電の基礎への利用が進む予定です。その意味では会社への利益だけでなく、社会的な問題にもコミットできます。
郡山
洋上風力発電の「モノパイル」と呼ばれる部位への利用ですね。7CCは、アジア最大級の大きさの鋼板を製造できるため、鋼板の使用枚数が少なく済み、溶接や加工の手間が減らせることが期待できます。カーボンニュートラルの実現に向けて洋上風力発電が必要不可欠となっており、新設備は、洋上風力発電設備導入において、効率的な建設、強靭な設備建設に大きく貢献できると思います。
川越
洋上風力発電への貢献は大きなトピックですが、それだけでなく、鉄鋼材料は高層ビルや自動車、家電製品など、人々の暮らしに必要不可欠な材料です。7CCの本格稼働は、高品質な鉄鋼材料を安定供給することで、各種製品のさらなる付加価値向上に結びつきます。その意味で7CCプロジェクトは広く社会に貢献するものだと自負しています。

Question - 4

本プロジェクトで
得られたものとは何でしょう?
また本プロジェクトを踏まえ、
今後の目標や挑戦したいことを
教えてください。

川越
通常の既設設備改造等の小規模建設工事では、各部門の担当者が複数の業務を同時並行で行っていますが、本プロジェクトでは各部門の担当者が集まり、同じ部屋で苦楽をともにしながら約4年もの間、本プロジェクト専任で業務を行いました。チーム一体で仕事をすることで非常にいいものができたという自負もあるし、人脈もできました。全国から多くの人が集まり、大きな目標に向かって力を合わせていくことが大規模プロジェクトの醍醐味です。
私は約10年前に福山地区でも建設班メンバーとして新規建設工事を担当しました。今回、倉敷地区で連続鋳造設備を新規建設し、当社の主力製鉄所である西日本製鉄所の両地区で大型建設プロジェクトを経験することができましたので、今度は海外での製鋼工場新設など、もっともっと大きなプロジェクトを手掛けてみたいですね。
郡山
7CCプロジェクトでは、関連する部署やメーカーが多く、仕様決めから工事調整まで、さまざまな人と連携していく必要がありました。そのためコミュニケーション能力が鍛えられたと思います。またプロジェクトでは数々のトラブルや想定外の課題も発生しましたが、多くの方と連携取りながら、眼前の課題としっかり向き合い、粘り強く解決していくことができるようになりました。もちろん、失敗したことも反省すべきこともたくさんありました。次に連鋳設備の建設に携わる機会があれば、その失敗や反省点を活かして、より良いものを作りたいと思っています。
藤村
私は、唯一“事務方”のメンバーです。本プロジェクトでは、普段ほとんど関わりのない製鋼研究部の方など、多岐にわたった部署と仕事を行うことができ、技術面を含めた視野がかなり広がったように思います。普段の工程業務では経験できない「一つのゴールをめざす」プロジェクトに参画したことはとても新鮮な経験でした。また、世界に誇る設備とともに働いているのだという自覚を改めて持つことができました。今後は7CC製造材の拡販に貢献して、社会に付加価値を与えられる仕事を進めたいと考えています。
大山
プロジェクトでの業務は予算策定から関係行政への認可、設備や制御仕様の決定まで極めて多岐にわたります。入社15年目にして初めて手がける業務もあり、7CCプロジェクトは新しい経験を得る、また新たな視点を獲得するいい機会になりました。製鉄業界は成熟産業ですが、まだまだ進化の余地を残しています。例えば近年、高炉法の見直しが進められており、電気炉を用いた製造方法の検討が進んでいます。今後はこうした地球環境に配慮した製鉄プロセスの見直しに挑戦していきたいと思います。