INTERVIEW
2016年入社
工学研究科 人工システム科学専攻修了
CAREER STEP
1年目 (5月) |
東日本製鉄所(千葉地区) 制御部 制御技術室 熱延生産ラインにおける制御技術の習得、トラブル調査。 |
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1年目 (7月) |
東日本製鉄所(千葉地区) 制御部 熱延制御室 熱延生産ラインにおける制御関係の小改造、操業改善対応。 |
2年目 | 東日本製鉄所(千葉地区) 制御部 制御技術室 熱延生産ラインにおける制御関係の設備投資業務全般(設備老朽化更新、新規設備導入、設備改良、ソフト改造等)を担当。 |
4年目 | 広州JFE鋼板有限公司(出向) CAL改造プロジェクトで制御関係の取りまとめ(仕様調整/進捗管理等)を担う。 |
大学・大学院ともに電気電子工学系の学科に所属し、大学院時代は「弾性表面波(Surface Acoustic Wave=SAW)デバイス」というミクロの世界の研究に携わっていました。研究対象の一つとしたのが、電子回路を構成するデバイス「SAWフィルタ」。スマートフォンなどに実装されており、ノイズカットなどに寄与しています。私の研究は波動を解析することで効率良い波の伝搬を実現し、通信品質の向上を目指すものでした。
こうしたミクロのデバイスの研究も面白みはありましたが、就職に際しては、電気電子工学系の知識を活かしながら、逆にマクロの世界で働きたいと考えるようになっていました。大きく、ダイナミックなモノづくりを手がけたい。そんな想いで着目したのが鉄鋼業界です。
JFEスチールを志望した動機は「電気電子工学系の知識が活かせる」「工場や設備の規模が大きくマクロの世界で働くことができる」「社内外の多くの人と関わりを持ってプロジェクトを推進できる」という点に魅力を感じたからです。加えて、工場見学や懇親会を通じて知り合ったJFEスチールの社員の方々と気さくに話すことができ、風通しの良さも感じました。また、社員の方々の話からやりがいを持って仕事に取り組んでいる印象を強く受けました。ここならば、自分の力を存分に発揮できると感じて入社を決めました。
入社4年目の2019年5月、当社と中国の広州薄板有限公司グループと合弁で事業を展開する、広州JFE鋼板有限公司に出向しました。ミッションは、既設のCAL(連続焼鈍生産ライン)をCALとCGL(連続溶融亜鉛メッキ生産ライン)の兼用生産ラインに改造すること。JFEグループで前例のない難易度の高いプロジェクトへの参画でした。
CALとは、冷延で硬くなった鋼板を熱処理によって再結晶させ、加工性を向上させるとともに、硬さや強さなどの特性を付与させる設備です。またCGLは鋼板の表面に亜鉛の被膜を作ることで、鋼板の耐腐食性を高めることを目的とした生産ラインです。鋼板市場の中で、現在CAL材は価格競争が激化しており、利益確保が難しくなっています。一方、CGL材は自動車業界を中心に需要が伸びており、改造プロジェクトは、この環境変化に対応してCGL材を拡充し、お客様のシェア確保及び自社の増収益を目指すものでした。
その中で私は赴任以来、電気・計装、プロセスコンピュータ、単体機器など、制御関係の改造の仕様調整/進捗管理等を担当。設計は日本メーカー、施工は中国メーカーがそれぞれ担っています。日中合同プロジェクトでは、各社の思惑が交錯して技術的な齟齬が生まれたり、工程遅れが発生したりすることが良くありますが、私はその両者の間に入って、制御関係の仕様調整、設計確認、工事フォロー、試運転対応、問題点フォローなどに取り組んできました。このCAL、CGL兼用生産ラインは、2021年12月に完了。CAL、CGL兼用生産ラインが稼働して最初にコイルが問題なく通過した瞬間、それまでの苦労が多かった分、大きな達成感を味わいました。現在は、最終受入テスト(FAT=Final Acceptance Test)合格に向けて、課題の抽出・対応など、最終調整を進めています。
赴任当時はさまざまな困難に突き当たりました。CAL改造プロジェクトの難易度の高さに加え、私自身熱延プロセス出身で冷延プロセスの経験がなく(熱延はスラブを加熱して熱いまま圧延する。冷延は熱延で作った鋼板をさらに薄く延ばすため常温で圧延する。今回のCAL改造は冷延プロセス)、中国語もまったく話せませんでした。しかも周囲の同僚は、いずれも経験豊富なメンバーばかり。そんな中で制御関係の仕様調整/進捗管理等が必要。
この厳しい状況を乗り越えるために、自分の最大の武器である「若さ」を逆手にとって、何かできないかと考えるようになりました。若さの特権である体力や吸収力では他の誰にも負けないはず……。そう考えて、徹底してCALとCGLに関する理解を深め、設計課題に関しては、メーカーはどう思うか、オペレーターはどう思うか、他の生産ラインはどのように対応しているか等々、多角的に物ごとを考え、多様な知識を業務時間は1分たりとも無駄にせず吸収していきました。また終業後には中国語のレッスンを私生活の中の最重要課題と位置づけ、他の人以上の頻度(2時間×週3回)で続け、語学スキルの早期習得に努めました。その甲斐もあって、赴任半年後には言葉の壁はなくなり、業務を円滑に進められるように。非常に厳しい状況での赴任でしたが、「逃げ場はなく、やるしかない」という想いで取り組み、改造完了に辿り着いたときには、大きなやりがいを肌身で実感しました。
今回の改造プロジェクトでは、契約、設計、工事、試運転と進んでいく中でさまざまな課題に直面しました。そのたびに、技術力に加え「人間力」が問われたと感じています。
たとえば試運転期間中に中国メーカーが「試運転の進捗を管理できない」と言ってきたことがありました。初めに、進捗管理は中国メーカーの担当なので「自分で進捗表を作って試運転を進めてください」と伝えてありましたが対応してもらえず、さらに中国メーカーは「日本メーカーが進捗表を出さないから試運転が進められない」と言い出す始末。日本メーカーに相談しても「契約にない」と言われ、試運転が進まない事態に。そこで日本メーカーと粘り強く交渉して進捗表の素案を出してもらい、それに中国メーカーのニーズに合わせて項目を補足し、中国メーカーに説明した上で、何とか試運転を進めることができました。
このように、異なる意見・考えが衝突する中で、的確な説明で理解・納得を促し最適な着地点を見出していくためには、「人間力」が必須です。この「人間力」を培うことができたこと、それによってプロジェクトを動かすスキルを吸収できたことが、今回のプロジェクトで得た大きな財産です。この知見を活かし、今後も中国関連の建設業務に携わっていきたいですね。ゆくゆくは中国のみならず、どの国でもグローバルに活躍できるエンジニアに成長したいと思っています。またコロナ禍で人の国際移動が大きく制限される中、試行錯誤し作り上げたCAL、CGL兼用生産ラインへの遠隔操作システム導入の経験を活かし、世界中のエンジニアがどこにいてもリアルタイムで繋がれる新しいコンセプトの工場を建設していきたいと考えています。
最近はスノーボードにはまっています。広州は雪がまったく降らない地域なので、楽しむ場は大きな室内スキー場。スノーボードは一人でも楽しめますし、ストレス解消に最適です。また同僚や友人との食事も楽しみの一つ。特に「火鍋」は最高です。最初は辛すぎて食べることができませんでしたが、今ではその辛さがやみつきになりました。コロナが落ち着いているときは時々旅行もしています。北京、上海、成都、南京、蘇州、張家界、アモイ、西安、深圳など中国のさまざまな街を旅しましたが、どの街にも独自の魅力があり、中国の奥の深さを感じますね。