ニュースリリース
JFEスチール株式会社
平成25年度 日本塑性加工学会賞 大賞を受賞
~ハイブリッド潤滑による冷間タンデムミルの高速圧延技術の開発~
当社が開発した「ハイブリッド潤滑による冷間タンデムミルの高速圧延技術」が、一般社団法人 日本塑性加工学会より平成25年度 日本塑性加工学会賞の最高賞である大賞(*1)を受賞しました。当社の日本塑性加工学会賞の受賞は、旧会田技術賞から7年ぶり、平成23年度に新設された学会大賞としては鉄鋼業界初となります。贈賞式および受賞講演は、6月7日にウインクあいち(愛知・名古屋市)にて行なわれました。
1.受賞理由:
今回の受賞は、低濃度の水溶性圧延油を循環使用する給油システムを採用する薄鋼板の冷間圧延ミルにおいて、新たに開発した潤滑制御技術により、缶用鋼板等の極薄・高強度材の冷間圧延としては業界最高速の高速安定圧延を実現したことが高く評価されたものです。
2.受賞技術の概要:
従来、缶用鋼板等の極薄材の高速圧延に対応した給油システムは、優れた潤滑性を確保するために、パーム油や牛脂などの動植物油脂を希釈水で高濃度(10~20%)に混合させながら圧延機に直接供給する方式が採用されてきました。しかし、圧延油消費量が大きく廃液処理の負荷が大きいという欠点がありました。
これに対して、受賞対象となった技術は、エステル系合成潤滑油(*3)を界面活性剤(*4)により低濃度(1~3%)で乳化したエマルション(*5)を循環使用する給油システムをベースとして、エマルション中の油滴が鋼板表面で油膜を形成する挙動を積極的に制御することにより、高速圧延における優れた潤滑性と圧延油消費量の低減を両立しました。
本技術は、既に『ハイブリッド潤滑技術』として、西日本製鉄所(福山地区)の冷間圧延ミルにおいて実用化されています。主な特長は以下の通りです。
① | 低濃度エマルションを循環使用する給油システムをベースに、エマルションの油膜形成を促進させる技術を併用(ハイブリッド潤滑)しています。これらの組み合わせにより、プロダクトミクスや圧延条件の変化に対しても最適な潤滑状態を維持する潤滑自在制御技術を世界で初めて実現しました。 |
② | ハイブリッド潤滑系統から供給するエマルションの油膜形成を高効率化することで、潤滑油の供給量を最小化(従来比3分の1以下)することに成功しました。 |
③ | 優れた潤滑性を実現したことで、通常6スタンドミルが主流の缶用鋼板の冷間圧延において、より板厚の厚い冷間圧延ミルと同様の5スタンドミルにより高圧下・高速圧延を実現しました。 |
④ | 極薄材・高強度材の冷間圧延で問題となるチャタリングと呼ばれる圧延機の異常振動を防止し、操業における最高速度達成率は従来に比べて7倍以上に向上しました。 |
『ハイブリッド潤滑技術』はこれらの利点を生かし、缶用鋼板をはじめとする薄鋼板の極薄化および高強度化のニーズに対して、高能率な生産を実現するプロセス技術として活用されており、圧延油消費量の増大を抑制する経済的な効果を発揮しています。また、今後強まることが予想される潤滑油の3R(Reduce、Reuse、Recycle)による環境負荷軽減の動向にも対応した冷間圧延技術となります。
なお、本開発に関連した基礎研究は、一般社団法人 日本鉄鋼協会より平成25年度俵論文賞(*2)も受賞しています。
当社はこれまで、積極的な技術開発と設備投資を積み重ね、世界最先端のエネルギー効率・資源循環率・環境保全技術を有する製鉄プロセスの確立に努めてきました。資源循環型社会の構築により地球環境に一層寄与していくために、更なる技術開発を進めてまいります。
(*1) | 日本塑性加工学会賞 大賞: |
塑性加工の分野における顕著な業績として評価される学術的研究、独創性のある特定の技術または材料・機械・製品を開発した技術を表彰するもの。 | |
(*2) | 日本鉄鋼協会 俵論文賞 |
日本鉄鋼協会の学術論文誌である「鉄と鋼」に掲載された前1か年の論文を審査し、学術上、技術上最も有益な論文を寄稿した会員を表彰するもの。 | |
(*3) | エステル系合成潤滑油: |
アルコールと脂肪酸の縮合によって誘導される合成エステルを主成分とする潤滑剤。天然油脂と異なり、分子量や構造を任意に選定することにより必要な特性を付与できる特徴がある。 | |
(*4) | 界面活性剤: |
ひとつの分子中に親水基と疎水基をもち、2液の界面に働き、界面の性質を変える物質であり、本来混じりあわない水と油を混合させるのに用いられる。 | |
(*5) | エマルション: |
水に油分が小滴となって分散している状態であり、界面活性剤を使用して、本来混じりあわない水と油を混合させたもの。水の冷却性と油の潤滑性を兼ね備えた液体として金属加工で広く使用される。 |
【図】西日本製鉄所(福山地区) 冷間圧延タンデムミルの潤滑油システム
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【写真】
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受賞者 |
JFEスチール(株) スチール研究所 圧延・加工プロセス研究部 主任研究員 木村幸雄 |
JFEスチール(株) スチール研究所 常務執行役員副所長 曽谷保博 |
JFEスチール(株) スチール研究所 圧延・加工プロセス研究部 主任研究員 松原行宏 |
JFEスチール(株) スチール研究所 鋼材研究部 主任研究員 藤田昇輝 |
JFEスチール(株) 西日本製鉄所(福山地区) 錫鍍金部 副工場長 小林宏爾 |
JFEスチール(株) 西日本製鉄所(福山地区) 安全衛生室 主任部員 天沼陽介 |
JFEスチール(株) 缶用鋼板セクター部 部長 吉岡修 |