ニュースリリース
JFEスチール株式会社
繊維強化樹脂を活用したスチール製の軽量・高剛性ドア構造の開発
~マルチマテリアル化技術~
当社と三菱ケミカル株式会社(以下、「三菱ケミカル」)は、繊維強化樹脂を活用した自動車用ドアの軽量化を共同で検討し、軽量かつ高剛性のドア構造を開発しました。
CO2排出量削減や燃費向上のため、車体軽量化のニーズは高まっており、一部の自動車では、ドアなどの蓋物部品を中心に、アルミニウムなどの低密度素材が適用されています。しかし、アルミニウムは軽量化には有効な反面、他のスチール製部品との接触部位で腐食が発生する、デザイン性の高いプレス成形が難しいなどの課題があります。また、これらの課題対策によるコストアップも問題となっています。そこで当社は、コスト性やプレス成形性に優れたスチールと、軽量かつ高剛性の繊維強化樹脂を組み合わせた、スチール製の軽量・高剛性ドア構造を開発しました。
自動車のドアパネルは、デザイン性や見栄えとともに、耐デント性(※1)や張り剛性(※2)などが求められます。耐デント性は、当社が開発した440MPa級焼付硬化型鋼板「ユニハイテン®」などを使用することで改善され、薄肉化および軽量化が可能です。しかし、ドアパネルの張り剛性は、使用される鋼板の板厚に大きく依存するため、薄肉化には限界があり、ドアパネルの軽量化がなかなか進まない原因の一つでした。今回開発したドア構造は、当社が独自開発したトポロジー最適化技術を活用して設計し、スチール製のドアパネルの内側に、三菱ケミカルのCF-SMC(Carbon Fiber-Sheet Molding Compound)(※3)成形技術で製作した繊維強化樹脂を接着しています。少量の繊維強化樹脂を最適な位置に接着することで、張り剛性とパネルの薄肉化による大幅な軽量化を両立しました。
今回開発したドア構造を用いた、実物大サイズの軽量ドアを試作しました(写真)。従来のドア構造では、0.6mm厚のスチール製ドアパネルを0.5mm厚に置き換えた場合、17%の軽量化が可能ですが、張り剛性は著しく低下します(図1)。しかし、今回開発したドア構造では、トポロジー最適化技術により設計した、最適な形状の繊維強化樹脂を最適な位置に接着しており、樹脂補強部品による重量増加を最小限に抑えながら、張り剛性は従来比で最大61%向上(※4)し、12%の軽量化(※5)が可能であることを実証しました。
当社は、単なる素材提供だけでなく、お客様の商品性向上を考えたソリューションを提供するため、自動車の設計段階からお客様と技術的に協力し合うEVI活動(Early Vendor Involvement)を積極的に展開し、自動車メーカーなどのお客様との協業に注力しています。今後も、お客様のさらなる高効率化のため、樹脂などの軽量素材を組み合わせたマルチマテリアル構造なども提案し、自動車車体の軽量化に貢献してまいります。
【写真】新開発したドア構造を用いた試作品
【図】開発したドア構造の性能
(a)開発ドアの軽量化効果 | (b)開発ドアの張り剛性(最大向上率) |
(※1) | 耐デント性:窪みのような永久変形を防ぐ、強さのこと。プレス成形および焼付塗装後のパネルの降伏強度が高いと、変形量が低減する。 |
(※2) | 張り剛性:アウターパネルの開閉操作やワックス掛けなどによる、ペコ つきや凹みへの強さのこと。ユーザーが直接感じる、重要なしっかり感の一つ。 |
(※3) | CF-SMC:CFRPの中間基材の一種で、長さ数センチメートルにカットされ た炭素繊維を、樹脂中に分散させたシート状の材料。プレス成形により、2~5分程度の短時間で部材に加工可能で、複雑な形状の部材を成形することができる。 |
(※4) | 平均14%向上 |
(※5) | 450グラム/ドアの場合 |