INTERVIEW耐火被覆低減工法
開発インタビュー

鉄骨造を採用した時に必ず必要なのが耐火被覆です。
当社が開発した「耐火被覆低減工法」は、鋼材と耐火被覆材の物性を詳細に検討し特性を見直すことで、
耐火被覆の厚さを従来の40%以上薄くすることを可能にしたもので、柱の仕上げ寸法の縮小や、耐火被覆工事費の削減を実現しました。
この工法の開発、販促に携わるメンバーに、開発に至った経緯や試験について、また大臣認定取得までの過程課程をうかがいました。
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植戸 あや香
JFEスチール株式会社
建材センター
建材技術部 建築技術室開発された工法や商品をお客様にPRし、同時にニーズを拾い上げる。耐火被覆低減工法のプロジェクトには途中から参加し、お客様への技術サービスを担当している。
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坂本 義仁
JFEスチール株式会社
スチール研究所
インフラ建材研究部
グループリーダー研究開発担当として耐火被覆低減工法の開発にスタートから携わる。
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森岡 宙光
JFEスチール株式会社
スチール研究所
インフラ建材研究部研究開発を担当。入社10年目で、耐火被覆低減工法には途中から参加。
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木下 智裕
JFEスチール株式会社
建材センター
建材技術部 建築技術室
チームリーダー商品・工法開発ならびにその拡販・PRを担当。研究所も兼務。耐火被覆低減工法の開発には、最初のアイデア立案から関わり、研究開発も担当した。
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鈴木 健太郎
JFEスチール株式会社
建材センター
建材技術部 建築技術室ファシリテーター
(2025/1/21 座談会当時)
CONTENTS
THEME 01
「耐火被覆低減工法」
1時間耐火の被覆厚さで2時間耐火の性能を実現
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鈴木
まず耐火被覆低減工法がどのような工法なのか教えてください。
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坂本
耐火被覆低減工法は、鋼材の付加価値を高めるために、耐火被覆の合理化に着目した、耐火被覆の厚さを従来から40%以上薄くすることができる工法です。耐火被覆材の熱物性、鋼材の熱容量と高温特性を詳細に検討し、耐火試験で性能を検証して開発しました。これまでの1時間耐火の被覆厚さで2時間耐火の性能を実現し、国土交通大臣から耐火構造としての認定を取得しています。
この工法によって耐火被覆の厚さが薄くなることで、柱の仕上げ寸法を縮小し、室内の床面積を広くすることができます。また、耐火被覆の材料費と工事費の削減も可能になります。
建築基準法上の規定では、耐火構造とは、壁や柱、床などが一定の耐火性能を備えた構造のことで、鉄筋コンクリート造や煉瓦造など国土交通大臣が定めた構造方法(建設省告示1399号)のもの(仕様規定)、または国土交通大臣の認定を受けたものをいいます。
鉄骨造は強度は高いのですが、熱に弱いため、その規定に適合させるためには耐火被覆が欠かせません。


▲ 耐火被覆低減工法
THEME 02
法改正をきっかけに
より合理的な耐火被覆仕様の実現が可能に
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坂本
2000年に建築基準法が改正され、耐火性能試験に仕様規定の他に性能規定も加わり、仕様規定から外れたものでも、指定性能評価機関の審査で所定の性能を満たせば耐火構造として認められることになりました。
耐火性能の検証は加熱試験の合否で判断します。それまでの仕様規定では鋼材温度で判定しましたが、性能規定が導入され、載荷加熱試験で要求耐火時間の間に崩壊しなければ、鋼材温度の判定基準を超えていてもよいことになりました。
そうすると、鋼材の強度が高くて、鋼材温度が上がっても崩壊しないものや、加熱してもそこまで温度が上がらないものは、耐火被覆厚さを薄くすることができると考えられます。 -
鈴木
載荷加熱試験の枠組みができて試験方法が増えたので、耐火被覆が合理化できるのではないかと思いついたのですね。
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坂本
その当時、厚肉の建築構造用冷間ロール成形角形鋼管「JBCR295」が開発され、そこで木下さんがひらめいたのです。耐火試験は、柱の場合、□-300×300×9を標準試験体としていましたが、新しい冷間ロールコラムは厚さが25ミリと厚い。厚くなれば当然熱容量が大きくなるので、鋼材温度は上がりにくくなり、その分被覆厚さを薄くできる。そう考えて、実現できるかヒアリングを進めることになりました。


▲ 対象断面サイズ
ロールコラムを中心に□200×12以上の断面が充実しており、
これまでの耐火試験で用いられてきた標準断面□300×9よりも
熱容量が大きく耐火性能上有利となる。
THEME 03
大幅な被覆低減と適用範囲拡大を目指し
試行錯誤を繰り返す
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鈴木
開発はどのように進められたのですか。
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木下
まず素材の材料レベルでの性能特性調査を行い、その上で部材レベルで解析や実験をして、全体構造としての性能が妥当か確認しながら進めました。どれだけ被覆厚さを落とすことができるかもポイントでしたね。
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坂本
中途半端な低減ではインパクトに欠け、お客様への訴求効果は見込めません。やはりある程度攻めて大幅な被覆低減を目指しました。
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木下
どのようなバリエーションで適用範囲を拡大していくのかも、費用対効果を含めて判断していきました。
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坂本
最適な鋼材断面寸法を選定しながら、1時間耐火の被覆厚で2時間耐火を実現し、被覆低減率40%以上を目標としました。
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木下
最初に検討したのは柱単体で、JFEコラムBCRを対象に、2015年から認定取得に向けて動き始めました。その後、外壁との合成耐火構造へと適用範囲を広げました。
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坂本
合成耐火構造は、社内にALCパネルや押出成形セメント板(ECP)など外壁材についての知見はないので、外壁材メーカーなどに直接コンタクトをして情報交換をさせていただきました。
開発当初は、性能検証をするためのデータや、試験体仕様に関する情報がなかったため、社内で何度も予備試験を行い、試行錯誤の繰り返しでした。


▲ 外壁との合成耐火の一例
THEME 04
解析や実験を通して感覚を磨く
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坂本
解析は開発スタート時は単純な差分法で解き、その後、木下さんが高度な解析プログラムをつくるようになりました。
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木下
10年以上前はコンピュータの速度も速くはなくて、エクセルで組んだ解析プログラムで計算していました。今は手軽に解ける環境が揃い、自分自身もレベルアップして、いろいろな問題に対応できるようになりました。ただし、あくまで当たりをつけるため、自分たちの感覚をつかむための解析だと思ってつくっています。
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坂本
感覚はどれか1つの方法だけでは磨けません。実験と解析の両方を知らないと、予測はできるようにならないでしょう。
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植戸
耐火試験についても教えてください。
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森岡
耐火試験は、火災時に人が建物から脱出するまで建物が崩壊しないことを確認する試験です。実際の建物を模擬して、火が出て部屋の温度が上がっていく状態をシミュレーションするために、ISO834の標準加熱曲線に従って炉内温度を上げていきます。実際の建物の構造部材には上階の荷重がかかっているので、試験では荷重をかけた状態で加熱し、人が脱出するまでの間に構造部材が崩壊しないかをチェックします。
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坂本
試験中は変形や劣化をきちんと見て、どこで何が起こっているのだろうという探究心がないと勘所は押さえられません。


▲ 炉内にセットアップされた載荷加熱前の試験体

▲ 載荷加熱中の炉内の様子
左側が試験体で柱上部から載荷荷重を
与えながらバーナーにより加熱する。

▲ 脱炉後の試験体
(左:崩壊なし、右:崩壊)
THEME 05
大臣認定を申請して取得するまで
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鈴木
試験をして大臣認定を取得するまでの流れを教えてください。
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森岡
事前に解析や試験をして、この仕様なら合格するだろうというところを見極めてから、その仕様で性能評価機関に評価を依頼します。その後に、性能評価機関で耐火試験をし、合格すれば、その後、細かい仕様を確認する性能評価委員会を経て、国土交通大臣認定を取得することができます。
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鈴木
評価をお願いしてから認定書が交付されるまではどのくらい時間がかかるのでしょうか。
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木下
計画を立ててから認定書を受領するまで、1年弱くらいかかるのが標準的だと思います。
認定試験に立ち会う時は、試験データを解析値のグラフを見比べながら、うまくいくかどうかドキドキしながら見守りましたね。 -
坂本
解析値とプラスマイナス5℃は違わない、相当な精度の結果が出てきたときはとても安心しました。ひとつひとつかなり悩みながらでしたが、最終的には攻めた低減に挑戦してよかったです。
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木下
やはり実験をしながら失敗を重ねて、その失敗の原因と真摯に向き合い、そこを解消するディテールを考えて適用する、そういった地道なやり方をしながら我々も成長して今があります。

THEME 06
ラインナップが増えて工法の普及につながる
梁の耐火被覆低減認定でパッケージ提案も
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植戸
この工法は仕様も拡充して、今12の認定を取得しています。最近、採用いただく件数も増えてきました。
当初は吹付けの材料費を減らせる点と、耐火被覆の厚さを減らして柱を細くできる点をPRしていましたが、最近は施工面での良さを押し出しています。ゼネコン各社で耐火被覆の施工ロボットが使用されているため、ロボットでの精度を管理のしやすさや、吹付け材の置き場を省スペース化できることをアピールしています。構造設計者のお客様からは、鋼管柱の構造設計を変更せずに採用できるところも評価していただいています。 -
木下
もうすぐ梁の被覆低減工法も大臣認定を取得できる予定です。
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植戸
梁と柱をJFEパッケージのようなかたちで一緒に提案することもできますね。
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森岡
梁の被覆が減ると、ロックウールの被覆の施工が楽になり、天井高を確保するうえでも有利になります。そういう意匠性のメリットもお客様にPRしていきたいです。
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鈴木
お客様から相談があった場合は、個別の案件でも検討してもらえるのでしょうか。
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木下
私たちはお客様のニーズに応えるべく、お手伝いをしながら開発していきたいと考えています。その中で一緒にできることがあれば、ぜひトライしていきたいです。

THEME 07
「JFESCRUM」の活動を通してお客様の期待に応える
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鈴木
最後に、今後の抱負をお聞かせください。
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植戸
私はお客様と触れあう機会が多いので、工法のPRはもちろん、他にどういうニーズがあるのか聞くことにも力を入れていきたいです。そこで得たことを研究所の皆さんと共有し、より使っていただきやすい製品の開発につなげていきたいです。
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森岡
鉄骨造は強度が高く、地震に対する安全性も非常に高いのですが、耐火という点においては鉄筋コンクリート造には及びません。なるべくその耐火という部分の使いやすさを上げていき、「鉄を使いたい」と思っていただけるように、これからも開発に努めたいです。
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木下
耐火被覆低減工法に限らず、JFEスチールの強みは営業と技術と研究所の距離がすごく近くて、そこが一体となって開発と販売に取り組んでいるところです。それを「JFESCRUM」という活動を通して、今後はより社外にも展開し、お客様の期待に応えていきたいです。
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坂本
木下さんのおっしゃるように、JFEの強みを生かして、お客様メリットの創出をグループ一丸となってやっていきたいと思いますし、そういった機会を提供する役割も果たしていきたいです。

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