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PROJECT
STORY

プロジェクトストーリー

製造現場の安全性と生産性を高め、

そこで働く仲間を笑顔にした改善プロジェクト。

製造現場の安全性と

生産性を高め、

そこで働く仲間を笑顔にした

改善プロジェクト。

OUTLINE

東日本製鉄所の熱延工場は、1200℃に熱したスラブと呼ばれる鋼片に高い圧力をかけて薄く延ばすラインの他、鋼板の歪みの矯正や表面の酸化被膜除去を行うラインなど複数のラインで構成されています。そのなかの1つの製造ラインでは、ある大きな課題に直面していました。それは、鋼板どうしを溶接する工程で2000℃を超える火花が発生し、周辺のケーブル等を焼損させてしまうこと。この火花が原因で度々起きていたトラブルを防ごうと、2023年4月に改善プロジェクトを立ち上げたのが、熱仕ラインの電気保全を担う千葉熱延制御室のメンバー3名です。このプロジェクトについてメンバーのコメントを交えながらご紹介します。

K.Y.

K.Y.

プロジェクトリーダー
2009年入社

H.S.

H.S.

プロジェクトリーダー補助役
2007年入社

H.K.

H.K.

メンバー
2018年入社

ROAD MAP

保護対策

01

まずは火花から可燃物を隔離・保護する対策を実施。しかし、予想以上に広範囲に火花が飛んでいることが分かり、「火花そのものを減らす」対策を検討するためオペレーターや機械保全担当にも相談。

設備の圧力調整

02

鋼板どうしを溶接する際にかける圧力を理想的な値に調整する対策を実施。しかし、予想に反して火花が減ったケースとそうでないケースがあることが分かり、原因の特定を行う。

ソフトウェア改造

03

鋼板の幅が狭いケースでは電極との接触に問題が生じ、火花が多く発生してしまうことが判明。そこで鋼板の幅が狭い場合は電極の一部を不使用化するためにソフトウェアを改造。

目標達成・経過注視

04

取り組みの結果、火花の発生を低減させることに成功。加えて省電力化も実現。関係者に喜ばれただけでなく、社内の改善活動のなかでも特に優秀なケースとして表彰を受ける。引き続き経過を注視。

焼損してしまうモノ自体を火花から保護。
しかし、それだけでは不十分だった。

熱仕ラインのなかには、製造した熱延コイルの巻き直し・調質・矯正を行う「スキンパスライン」という連続精整ラインが存在する。そのうちの1つ、第3スキンパスライン(以下:3SKライン)には鋼板どうしをつなぎ合わせる工程があり、「スポットウェルダー」と呼ばれる溶接機が用いられている。ここで発生する火花が大きな問題となっていたのだ。プロジェクトリーダーを務めたK.Y.が語る。「高温の火花が周辺のケーブル等を焼損させたことが原因で製造ラインを停止する事態を招き、復旧までに1日以上かかってしまいました。そんなトラブルを2度と起こしてはならないと考えて立ち上げたのが、この『3SK スポットウェルダー安定化』プロジェクトです」。火花は1日およそ1600tにも及ぶ製造作業をストップしてしまうばかりか、工場で働く技術者たちの安全を脅かしていたのだ。

そこで対策を考えたプロジェクトメンバー。すぐに実行に移したことは、スポットウェルダー周辺にあるケーブル等の可燃物を隔離・保護することだった。プロジェクトリーダーの補助役を務めた佐藤が当時を振り返る。「焼損してしまうモノ自体を物理的に遠ざけたり、高温に耐え得る素材で保護するという対策は、比較的低コストでできるのですぐに実行できました。しかし、対策を完了して現場を観察していると、私たちが想定していた以上の広範囲に火花が飛び散っていることが分かったのです」。そこでメンバーは「火花そのものを減らす」ための対策を考え始めた。しかし、なかなか答えは出ない。そこで良い案を求めて、現場のオペレーションを担う生産技術や、設備のメンテナンスに取り組む機械保全の担当者たちにも相談を持ちかけた。

鋼板にかかる圧力を測定し、
理想的な圧力値に調整。

溶接を行う際には、どうしても火花が発生してしまう。これをゼロにすることは理論上不可能だ。しかし、発生する量を低減させることはできるのではないか? そんな考えから他部署のメンバーにも意見を募り、ミーティングを重ねた。そこで生まれたアイデアの1つが、溶接時に鋼板にかける圧力を調整するというものだった。

若手メンバーのH.K.が語る。「まずは現状ではどれだけの圧力がかかっているかを測定することに。設備にデータ測定用の機器を設置し、常にデータを把握できるようにしました。実際にデータを採取してみると理想的な圧力値から外れていたことが分かり、圧力設定を正しく修正すると火花の量に変化が見られたんです。大きくゴールに近づいたようでうれしかったですね」。しかし、H.K.たちの期待は脆くも崩れ去る。「対策後、火花が減っている時もあるけれど、まったく減っていない時もあるとオペレーターから連絡をもらったんです。データを確認すると圧力は確かに理想値になっているのに、なぜだろうと驚いたのが正直な気持ちでした。そこで現場で何が起きているのか、さらに注意深く観察することに。期待していただけに心が折れそうにもなりましたが、H.S.さんやK.Y.さんが粘り強く調査を続ける姿勢に励まされました」。

鋼板の幅が狭いケースでは、
電極の一部を不使用化するプログラム作成。

観察を続けるうちに、K.Y.らは鋼板の幅によって火花の量が変化している事実を発見した。「3SKラインではお客様のオーダーに応じてさまざまな幅の製品をつくっていますが、幅が狭い時には鋼板が設備の電極に触れきらない部分があることが分かりました。全部で6つの電極が並んでいますが、幅が狭いケースではそのうち4つの電極にしか触れていませんでした。余った2つの電極によって、たくさんの火花が発生していたというわけです」。

そこで次にどんな対策が考えられるかをメンバーで話し合った。鋼板の幅が狭い時のみ、両端2つの電極に電流を流さない、つまり不使用化する対応はできないか? そんなアイデアが生まれた。これを実現するには、設備を動かすソフトウェアを改造する必要があった。H.K.が語る。「こうした改造は初めての取り組みでしたが、私たちが意図したように電極を操作するプログラムの作成に挑戦しました。鋼板の幅をきちんと把握し、その値に応じて電流を流す電極を指定する。言葉にすると簡単に聞こえますが、プログラミングは一筋縄ではいきませんでした。K.Y.さんやH.S.さんにも協力してもらい、やっと思い描いた通りのプログラムを実現できたんです」。

火花の削減だけでなく、省電力化にも成功。
安全性・生産性の向上とともに環境負荷も低減。

上記3つの対応によって火花の大幅削減に成功したのは、プロジェクト発足からおよそ5ヶ月後のことだった。H.S.が語る。「火花によって現場にトラブルが起こればラインを稼働できなくなるばかりか、私たちがもっとも遵守すべき安全が損なわれてしまいます。事故を未然に防ぐ対策ができたことで、現場で働くオペレーターは非常に喜んでくれました。しかも、ソフトウェアの改造によって余分な電力を削減することにも成功。安全性と生産性を向上させただけでなく、環境負荷や製造コストの低減にも貢献できたことに大きな達成感を感じました」。

その言葉に頷きながら、K.Y.はこう語った。「今回のプロジェクトでは何度も現場に足を運びました。自分たちの目で確認することで、小さな変化にも気づくことができるようになったのは大きな収穫です。大量のデータと格闘しましたが、事務所でパソコンを眺めているだけでは分からないことや、データだけでは把握しきれない違和感が現場には必ずあることを学びましたね」。こうして課題は解決されたが、引き続き3SKラインの様子を注視していくという。

また、このプロジェクトはJFEスチール全社で優れた改善活動を讃える「J1活動」において表彰を受けることとなった。今後、JFEスチールの海外拠点に赴き特に秀でた事例として今回のプロジェクト内容についてプレゼンテーションする予定だ。最後にK.Y.は笑顔でこう語った。「現場の関係者だけでなく、第三者からもこの取り組みを評価してもらえたことをうれしく思います。今回はリーダーとしてプロジェクトを推進していくことの難しさを実感しました。私一人ではできないことばかりだったので、H.S.さんやH.K.くんはもちろん、協力してくれた他部署の方々にも心から感謝しています。もしもほかの地区でも同じような課題を抱えていれば、その解決に貢献したいと思っています」。